道化の起源|道化の民俗学①
山口昌男著『道化の民俗学』(岩波現代文庫)、第二章「アルレッキーノとヘルメス」より。同書は、著書がヨーロッパ滞在の折に足を運んだ即興劇「コンメーディア・デラルテ」に登場する道化=アルレッキーノの紹介を皮切りに、道化という概念について論じたもの。知識量が膨大で消化不良だが、面白かったところをまとめておく。
■ 道化の起源と地獄のイメージ
第二章では、まずアルレッキーノの起源について考察が巡らされる。その起源や変遷を明示した「成長記録」のようなものはないようだが、アルレッキーノはヨーロッパ中世の民俗文化の土壌から生まれたという。
その起源を考えるにあたって、著者は一般に用いられる三つの方法を挙げる。
個人的には、②の呼称に関するものが面白かった。アルレッキーノはイタリア、フランス、イギリスの各言語で「ハーレキン/ハーレクイン」「アルルカン」などとも呼ばれ、その呼称の起源には、「道化の跳躍が似ている」という鳥や、フランスに実在した人物エルヌカン公などの諸説があるらしい。また、ラテン語やゲルマン神話を介して「地獄の王」というニュアンスにも行き着くとか(ただし、いずれの説も決定的なものではない)。
説の真偽はさておき、アルレッキーノを地獄の王と見るのは、語源的なつながりからだけではない。11世紀イギリスのある僧院に残る記録が取り上げられているが、それはある年の元旦の夜にハーレキン(アルレッキーノ)が先導する幽鬼の一団に遭遇したという僧侶の証言で、大きな錫杖を持ったハーレキンをはじめ、それに続く棺桶や絞首台を運ぶ男たち、悪魔に責め苛まれる者、そして証言者の死んだ弟まで共にいたのを目にしたという。
■ カーニバルとの結びつき
この記録について、著者は次のように説明する。(同書39頁)
この描写を通して現れるものは、古代ローマのサトゥルナリア(農神祭)の行列であり、中世から近代ヨーロッパ農村に連綿として続いているカーニヴァルの山車である。……この幻覚はカーニヴァルの山車の記録に基づいていることは確かである。
さらに、ロシアの文学史家ミハイル・バフチンの分析が取り上げられる。(同書39頁)
- 大きな錫杖を持ったハーレキンはへーラクレースを想わせ、
- 全体が豊饒祭のパターンである死と誕生を表現し、
- 堕落したため罰せられる女たちの姿態の記述は性交=豊饒の象徴的行為である
バフチンによれば、一団の様子はカーニバルの基調が貫かれているともいう。(同書39-40頁)
行列全体を包む炎は、二重の意味を持ち、
- 世界を破滅させると同時にさらに更新させる火である。ヨーロッパのカーニヴァルではほとんどいつも《地獄》と呼ばれる山車が出てくるが、最後にこの《地獄》が盛大に燃される
中世を経て形成されたアルレッキーノのイメージ、その悪霊的な畏怖感はヌミノーゼとも合致することなど、説明が続く。ひとまずアルレッキーノの表象について、著者によるまとめを引いておく。(同書42頁)